科学研究における代替法

ヒューメイン・ソサイエティー・インターナショナル


動物実験が法令で要件となっている場合もある製品試験と異なり、生命科学の基礎研究、病理学やヒトの疾患の治療の研究については動物の使用を義務付ける法令はない。このような研究における動物実験は、生命科学や医学の草分けの時代から引き継がれたものである。しかし、動物に害を与える研究の代替として様々な他のアプローチが真価を発揮し始めている。このようなアプローチには下記が含まれている。

疫学調査: 人間の集団の比較研究により、科学者や医者らは、予防的措置をとることができるようにヒトの疾患や障害の根本的原因を発見することができる。疫学は比較に基づいた科学である。例えば、調査対象となっている要因に対する暴露の度合いが異なる集団の疾患の発生率を比較することができる。喫煙とがん、コレステロールと心疾患、高脂肪の食事と一般的ながん、そして化学物質への暴露と出生異常などの関連性は、疫学により明らかになった。疫学調査は、さらにエイズやその他ほぼすべての感染性疾患の伝染のメカニズムも明らかにしており、このような調査により、これらの疾患をどのように予防できるか示すことができる。

臨床研究: 疾患や障害の原因について、患者を治療する過程において明らかになったことも多々ある。高度なスキャン技術(MRIPETCT等)を用いた患者を対象とした調査において、アルツハイマー病、統合失調症、癲癇や自閉症の患者の脳における異常が特定されている。

インビトロ研究: 細胞や組織培養を使った研究(インビトロ研究)は、抗がん剤、抗エイズ薬やその他の医薬品のスクリーニングに使われている。また、ワクチン、抗生物質や治療用たんぱく質を含む医薬製剤の中には、今では製造や試験をインビトロで行うことが望ましいとされているものもある。エイズウィルスをヒト血清において隔離することに成功しており、インビトロの方法により、ウィルスがヒトの細胞に及ぼす影響が明らかになりつつある。現在、国際的なヒト組織バンクにより、糖尿病、がん、嚢胞性線維症、筋ジストロフィー、緑内障やその他50種類以上の異なるヒト組織が研究のために提供されている。インビトロの遺伝子研究では、アルツハイマー病、筋ジストロフィー、統合失調症やその他の遺伝性疾患に関連している遺伝子マーカー、遺伝子やたんぱく質を特定するに至っている。

ヒトの臨床試験、疫学研究やインビトロ研究は医学の進歩においては必要不可欠である。(動物実験を用いている研究者も、動物実験の妥当性を確認もしくは否定するために必要であるとしている。)しかし、人間の参加者を募った研究を倫理的に実施するためには動物実験とは異なる対応が必要となる。動物実験では、人工的に疾患を誘発させるが、臨床研究の場合、すでに疾患を持っている人間や亡くなった人間を対象とする。動物実験では、適宜操作して必要に応じて殺処分できる「研究対象」が望ましいが、臨床研究では、研究者は患者や調査の参加者に害を加えてはならない。動物実験では、人工的に作り出された「動物モデル」が完全にヒトの状態を再現できることはないというジレンマが残るが、臨床研究の場合、結果は人間に直接的に関係があるものとなる。しかし、残念ながら、現時点では保健関連の慈善事業や政府の研究資金提供機関は、人間を調査する研究方法よりも動物を用いた研究により多くの資金を供給している。

ヒューメイン・ソサイエティー・インターナショナル(HSI)ヨーロッパは、より倫理的で信頼性のある研究方法の開発を促進すべく、世界をリードするような動物を用いない研究方法の研究拠点の設立のためのキャンペーンの最前線で取り組みを展開している。20085月、HSITrust for Humane Research (医学研究において代替法の開発促進に取り組む財団)Hadwen 博士と世界的に有名な霊長類学者のJane Goodall 博士を招いて欧州議会でイベントを共催した。HSIは、「動物実験のないヨーロッパの科学に向けて」という共同執筆した報告書と15万人のEUの市民の署名を提出した。

 

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