異種移植について

Humane Society International


科学者の中には、あと数年で、ヒトに移植するための臓器をブタの体内で作ったり、ブタやヒツジを培養の器として活用してヒト細胞由来の臓器(移植を必要としている人間の細胞を使ったものを作ることもできる可能性もある)を作ることができるようになると考えている者もいます。この点について、当団体の立場とその理由は以下の通りです。

全米人道協会(The Humane Society of the United States, HSUS) は、現在、移植用の臓器の需要が供給できる数をはるかに上回っており、この課題を解決するために、動物からの臓器の活用が検討されていることを把握しています。しかし、The HSUSは、異種移植は、動物を搾取するだけではなく、最終的には人間の健康にとっても害のある短絡的な考え方であると懸念しています。我々が食品のために使う動物は、移植のための臓器を「培養」するためには適切ではありません。「培養の器」となる動物は、特別な環境で育てられなければならず、人間のレシピエントによる拒絶反応の確率を減らすことを目的に遺伝子操作されている場合が多々あります。このような人工的な環境で飼養管理されている動物の福祉と、遺伝子操作された動物を作り出すことに対する代償(金銭的にも倫理的にも)について、無視できない倫理的懸念があることも事実です。さらに、The HSUSは、動物の臓器を人間に移植することにかかわる重篤な感染症に関するリスクの増加についても懸念しています。実際、新たな感染症の75%が動物から人への伝染により発生している点を考えると、異種移植は臓器のレシピエントを通して人口全体に影響を及ぼしかねない新たな危険な感染症を発生させる要因になる可能性もあります。

生物工学、幹細胞研究そして再生医療においては、ここ数年だけでも医学の世界で目覚ましい進歩を遂げています。これらにより、研究施設で培養し機能性のある臓器を作るための適切な「足場」を得ることができました。これらの領域の臨床における活用のさらなる発展と促進のために研究資金を集中させることが、臓器の供給量に関する課題の対応方法としてより適切であり、また現在臓器移植(人間からでも動物からでも)とセットで行われているが、身体に負荷がかかる免疫抑制療法の必要性も少なくなり、資金を節約してかつより多くの命を救うためには、現在の臨床アプローチや異種移植よりも費用対効果が良いと考えています。

The HSUS は、臓器移植に活用できるこれらの生物医学研究における進展により、異種移植の研究を実施する意味が薄れていると考え、このような趣旨の調査研究の助成や受理を廃止するよう提言します。遺伝子操作された動物を使う異種移植のプロジェクトよりも、必要な医学的進歩を可能とする新たな科学技術に資源を集約するほうが、公衆衛生の利益にもつながると考えます。

疾患で亡くなる人を救うためではなく、人間の自然な寿命を延ばすために活用するということであれば、異種移植に関する倫理的懸念に違いがあると思いますか。

当団体は、どのような理由であれ、動物の身体の部位を人間に移植するということは、倫理的に懸念があり、費用対効果が見込めず、効率面で問題があり、そして何よりも安全ではないと考えています。移植をする理由が何であれ、動物の臓器を人間に移植するということには多大なリスクが付きまといます。ドナーの動物種や移植の理由にかかわらず、移植のレシピエントについては拒絶反応を予防するために免疫抑制療法が必須です。しかし、現在の免疫抑制療法は、有害な副作用があり、感染症のリスクを増加させるため、動物の臓器の供給を増やすことは、疾患にかかった、または疲弊した臓器に代わる、安全、倫理的に万全、かつ医学的に適切な対策というわけではないのです。

このような方向性で研究を実施している企業や科学者とかかわりを持っていますか(例えば、どこかの個人・法人のアドバイザーとなっているなど)。

当団体は、往々にして、試験や研究において使われる実験動物を削減し、最終的には動物実験を代替することを目的とした、ヒト組織を研究施設で培養する新たな方法の開発に従事している科学者らと協働しています。このような研究者には、学術誌で公表するレビュー論文の執筆のために助成金を提供したり、ヒトに焦点を当てた、動物を用いない方法のさらなる活用を促進し、これらの革新的な技術の露出度や親しみやすさを科学の領域全体において向上させるために、科学者が対面でアイディアや研究結果を共有できるようなワークショップなどのイベントの開催・共催に力を入れています。

この課題について、皆が知っておくべきことは他にありますか。

異種移植は、良くても応急の解決策であり、リスクがあり比較的根拠が乏しい方法です。動物の臓器を橋渡しとして使うことで移植希望者の順番待ちリストが短くなることはなく、動物から臓器を移植した患者は、きちんと機能してマッチングされた人間の臓器を移植できるまで順番待ちリストに名を連ねる必要があります。また、異種移植は臓器のドナーの数を減少させる恐れもあり、たとえ異種移植がリスク・フリー、かつ安価で成功率が高い方法となっても人間の臓器ドナーの必要性はなくならないということを覚えておかなければなりません。

現在、完全な臓器移植の有用性を抑える主要な課題である標的が特定できずかつ有害な免疫抑制は、異種移植により対応できるものではありません。何故なら、動物の臓器の拒絶反応を予防するために、免疫抑制療法が必要となるからです。一方で、新たな治療法の中には、免疫抑制療法を削減し移植された臓器の機能を息の長いものにし、レシピエントの生活の質を向上させるために、移植された臓器に対する免疫寛容を促進することに焦点を当てたものもあります。このようなヒトに即したアプローチであれば、当団体も全面的に支援します。

腎疾患だけで(2016年、米国では30,000件の腎臓移植が行われた)、人間の細胞移植の評価のため20件以上の臨床試験がclinicaltrials.gov に登録されています。これらの試験から得られたデータは将来の移植の戦略に役立てられるはずです。現在、移植に動物の臓器を使うという臨床試験は行われていません。これは、臓器の機能不全を抱えていたり臓器移植が必要な人たちのために臨床で役立てようと考えた際、再生医療の市場が異種移植の話題よりも先を見つめており、異種移植を目的に遺伝子操作で「人間化」した動物を開発することに限られた研究費を費やすことは、実質的に時代に逆行していることを意味します。

動物の臓器の活用は、実際臓器移植のコストを大きく増加させます。米国医学研究所は、臨床の戦略として異種移植を活用するとすれば、移植のための年間予算を30億ドルから200億ドルに増やさなければならないと推定しています。動物を遺伝子操作するということは、作業量も多く無駄が多いプロセスなので、異種移植のために動物を遺伝子操作するという単純な物言いは、「人間」の臓器一つを作り出すためにかかる時間、労力、そして命(動物)を過小評価していると考えます。

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